田中亘
本書は、企業法の解釈論や立法論をいかに進めるべきかという方法論に焦点を当てた論文集です。伝統的な法学の方法論が抱える限界、特に法制度が人々の行動や利益に与える間接的効果の分析不足や価値判断基準の曖昧さを指摘。その解決策として「法と経済学」の知見を積極的に導入し、「効率性」を主要な評価基準とする分析手法を提示します。方法論の理論的考察と、会社法、担保法、倒産法といった具体的な企業法問題への適用を通じて、新たな企業法学のあり方を探求する一冊です。
田中亘は、東京大学社会科学研究所教授。専門は商法、会社法、法と経済学。 著書に『会社法』(東京大学出版会)など多数あり、同書は定番の教科書として知られる。 法と経済学の手法を駆使し、企業法の解釈論・立法論に新たな視点をもたらしている。
この分野をある程度学んだことがある人向け
企業法学は、企業の組織や活動を規律する法制度(会社法、商法など)を研究する分野である。 伝統的な法学では、法制度が人々の行動や利益に与える間接的な効果を体系的に分析するツールや、価値判断の明確な基準が不足していたという問題意識があった。 これに対し、経済学の手法を用いて法制度を分析する「法と経済学」が、法制度の効果予測や事後検証の有用なツールとして注目され、企業法学への応用が模索されてきた。 本書は、この「法と経済学」のアプローチを企業法学の方法論として確立し、その実践を示すことを目的としている。
ロナルド・コースとグイド・カラブレイジによる現代「法と経済学」の起源 (1960年代)
「社会的費用の問題」などの論文により、経済学が市場外の活動を調整する法律の分析に適用される道を開いた。本書が依拠する分析手法の理論的基盤を形成する。
アメリカにおける法と経済学の発展と教育プログラムの普及 (1970年代以降)
シカゴ大学のリチャード・ポズナーらを中心に研究が進み、主要ロースクールで教育プログラムが設けられた。日本の法学界にも影響を与え、田中亘教授の研究の背景にある。
日本の会社法改正の歴史と実務の変化 (平成17年会社法など)
会社法は頻繁に改正され、企業を取り巻く環境の変化に対応してきた。これらの改正は、新たな法解釈や立法論の必要性を生み、本書で論じられる方法論の適用対象となる。
伝統的な「利益衡量論」の限界への認識
日本の商法学で有力であった法解釈の方法論である利益衡量論が、法制度の「決め手」となる価値判断の方法を明確に示してこなかった点に、著者は不満を感じていた。これが本書の方法論的探求の出発点となる。
コーポレートガバナンス・コードの導入とESG課題への対応 (2010年代半ば以降)
上場企業の企業統治に関する規範が浸透し、気候変動などのサステナビリティ課題への取り組みが取締役会に求められるようになった。企業法の現代的課題として、本書の方法論が応用されうる文脈を提供する。