朴沙羅
本書は、社会学者である著者が自身の在日コリアンとしての家族史を、親族へのオーラルヒストリーを通して記述する試みです。済州島四・三事件や日本の植民地支配、戦後の混乱といった東アジアの激動の歴史が、個々の家族の移動や生活、アイデンティティ形成にどのように影響を与えたのかを、当事者の語りから丹念に紐解きます。歴史の大きな流れと個人の生が交錯する地点を問い直し、語られなかった声に耳を傾けることで、「在日」という存在の多層的な意味を深く考察する一冊です。
朴沙羅(パク・サラ)氏は1984年京都生まれの社会学者です。京都大学で博士号(文学)を取得後、立命館大学、神戸大学を経て、現在は社会理論・動態研究所研究員およびヘルシンキ大学文学部講師を務めています。専門は歴史社会学、移民研究、ナショナリズム/レイシズム研究、質的調査法(オーラルヒストリー、生活史研究)です。主な著書に『「外国人」をつくりだす』、『ヘルシンキ 生活の練習』などがあり、本書は自身の家族史を題材とした意欲作です。
大学の教養科目くらいの知識があると読みやすい
本書は、日本の植民地支配と戦後の混乱期に、朝鮮半島から日本へ渡った人々の生活史に焦点を当てています。特に、済州島四・三事件という特定の歴史的悲劇が、個々の家族の移動と離散、そして日本での新たな生活形成にどのように直結したのかを、当事者の語りを通して明らかにしようとしています。これは、従来の国家中心の歴史叙述では見過ごされがちだった、市井の人々の経験と感情に光を当てる試みであり、在日コリアンという存在が形成された歴史的・社会的な背景を深く掘り下げています。
日本の朝鮮半島植民地支配(1910-1945年)
著者の家族が済州島から大阪へ渡る背景には、日本の植民地支配下での経済的困窮や労働力移動の構造が存在する。本書は、この時期の「帝国内の移動」が戦後に「密航」と規定されることの不条理を浮き彫りにする。
済州島四・三事件(1948-1954年)
著者の親族が済州島を脱出し、日本へ移住する直接的な契機となった事件。本書は、この事件が家族の離散と日本での新たな生活形成に与えた甚大な影響を、個々の語りから具体的に描いている。
サンフランシスコ講和条約発効(1952年)
この条約の発効により、日本に居住していた朝鮮半島出身者とその子孫は日本国籍を喪失し、「外国人」として再定義された。本書は、この出来事が在日コリアンの法的・社会的な位置づけに与えた決定的な影響と、それに伴うアイデンティティの葛藤を考察する。
外国人登録令の公布・施行(1947年)
戦後、日本政府が「外国人」を管理するために導入した制度であり、在日コリアンが日本社会で「外国人」として扱われる法的基盤となった。本書は、この制度が人々の生活に与えた具体的な影響と、その後の管理体制の再構築の過程を背景として描く。
朝鮮戦争(1950-1953年)
済州島四・三事件と並行して起こり、朝鮮半島の分断を決定づけた戦争。この戦争の混乱が、済州島からの日本への避難をさらに促し、著者の家族の移動の背景にある。